カイラ・ミューラー作戦

バグダディ殺害

バグダディの潜伏先に突入する米軍特殊部隊
戦争対テロ戦争[1]
年月日2019年10月26日深夜 ~ 翌10月27日[2]
場所シリア北西部・イドリブ県バリシャ郊外[3]
結果:対象のバグダディを殺害[4]
交戦勢力
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ISIL(イスラーム国)の旗 ISIL
指導者・指揮官
アメリカ合衆国の旗 ドナルド・トランプ ISIL(イスラーム国)の旗 アブー・バクル・アル=バグダーディー 
戦力
地上戦闘要員100人
ヘリコプター8機
MQ-9 リーパー
F-15[5]
不明[6]
損害
なし[7] バグダディ自爆子供2人が巻添え)
5人以上戦死
2人拘束
子供11人保護[6]
シリア内戦
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カイラ・ミューラー作戦(カイラ・ミューラーさくせん、: Operation Kayla Mueller)は、2019年10月26日アメリカ軍特殊部隊ISIL指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーの拠点を襲撃して死亡させた作戦。長年の対テロ戦争はこれによって大きな節目を迎える事となった。

作戦名は、ISILに拉致拘束された後に死亡したアメリカ人女性、カイラ・ミューラー(英語版)の名から採られた[8]

作戦前

ISILの指導者であるバグダーディーの拘束は、シリアイラクでISILとの戦闘を行う有志連合ロシアシリアなどの課題となっていた。2017年5月28日に行われたロシア連邦航空宇宙軍によるシリア空爆など、大規模な戦闘後に幾度か死亡説も出されたが消息はつかめないままとなっていた[9]

アメリカ合衆国トルコ、イラクなどの関係者は2018年頃から拘束した複数のISILの幹部らからバグダーディーの所在に関する有力な情報を把握し始めた。この頃、バグダーディーは自身の居場所が検知されないようにシリア国内を転々とし、ぎっしりと野菜を積んで偽装したミニバスの車中で司令官らと組織の戦略について協議する状況にあった[10]

2018年6月2日、バグダーディーの第一夫人と娘ら10人がトルコ国内のハタイ県で拘束された。夫人からは、ISILの内部情報やバグダーディーに関する情報がもたらされた[11]

2019年5月までにクルド人が主導するシリア民主軍は、アメリカ中央情報局と連携しながらデリゾール県にてバグダーディーの所在を特定。最終的には工作員がバグダーディーの下着を持ち帰り、DNA鑑定を行い本人と特定した。その後、バグダーディーがイドリブ県に移動する最中も追跡と監視が行われた。作戦が実施される直前の2019年10月9日には、トルコ軍によるシリア侵攻が発生し、アメリカとクルド人勢力の関係が微妙なものとなったが、バグダーディーの監視は継続された[12]

作戦の経過

襲撃前(左)のバグダーディーの隠れ家。襲撃後(右)に破壊された。

2019年10月26日、アメリカ陸軍の特殊部隊デルタフォースおよびレンジャー特殊任務大隊)は、イラク北部アルビールからナイトストーカーズの8機のヘリコプターに分乗してシリア北部へ向けて移動。移動にあたっては不用意な交戦に陥らないよう、シリアに展開しているロシア連邦軍側との間で事前調整も行われた。

ヘリコプターはイドリブ県ハーレム郡(英語版)バリシャ村(英語版)近郊の隠れ家の近くに着陸、特殊部隊の隊員が家の壁を爆破して突入すると一方的な交戦状態となった。F-15E戦闘機と無人攻撃機MQ-9 リーパーを投入して空爆も行った[13][14]。バグダーディーは3人の子供(後日、2人であると訂正されている[15])をつれてトンネル内に逃げ込み、自爆用のベストを起動して爆死。ISIL側の被害は、バクダーディーと子供のほか、戦闘員5人、バグダーディーの妻が死亡。2人の成人男性が捕虜となったほか11人の児童が解放された。アメリカ軍側の被害は、負傷者2人と爆発に巻き込まれた軍用犬コナンであった[16][17]

バクダーディーの水葬

バグダーディーの遺体は現地で検視が行われた後に海上に持ち出されて水葬に付された。水葬に付した海域は明らかにされていない。2011年に行われたアルカーイダ指導者、ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害にも埋葬地を聖地化するのを防ぐために同様の措置が取られていた[18]

脚注

  1. ^ “対テロ戦争の20年~米国同時多発テロ事件から「タリバン」復権に至るまでの国際テロ情勢と今後の注目動向~”. 公安調査庁 (2021年). 2023年1月7日閲覧。
  2. ^ “米軍、IS指導者を追い詰めた2時間 深夜の急襲作戦”. 日本経済新聞 (2019年10月28日). 2023年1月7日閲覧。
  3. ^ “イラク・レバントのイスラム国(ISIL)”. 公安調査庁 (2021年). 2023年1月7日閲覧。
  4. ^ “トランプ米大統領「IS指導者は死亡」 米軍事作戦で”. 日本経済新聞 (2019年10月27日). 2023年1月7日閲覧。
  5. ^ “バグダディ急襲作戦はビンラディン作戦に比べれば楽勝だった”. ビジネスインサイダー (2019年11月5日). 2023年1月7日閲覧。
  6. ^ a b ビジネスインサイダー
  7. ^ “IS最高指導者のバグダディ容疑者死亡 米国が発表”. 朝日新聞 (2019年10月27日). 2023年1月7日閲覧。
  8. ^ “IS急襲作戦名は米女性の名前、バグダディ容疑者の性的暴行被害者”. AFP (2019年10月29日). 2019年10月29日閲覧。
  9. ^ “バグダディ容疑者、空爆で殺害か IS最高指導者、ロシア軍空爆で”. huffingtonpost (2017年6月16日). 2019年10月29日閲覧。
  10. ^ “米軍急襲のIS指導者、側近が居場所特定の鍵に”. ロイター (2019年10月28日). 2019年10月28日閲覧。
  11. ^ “バグダディ容疑者の妻、ISの「多くの情報」をトルコに提供か”. AFP (2019年11月7日). 2019年11月16日閲覧。
  12. ^ “IS指導者特定、下着が決め手=クルド勢力、米軍に情報”. 時事通信 (2019年10月29日). 2019年10月29日閲覧。
  13. ^ “米国防総省、ISIS指導者急襲作戦の映像を公開”. CNN. (2019年10月31日). https://www.cnn.co.jp/usa/35144698.html 2020年1月7日閲覧。 
  14. ^ "US troops demolished ISIS leader's suspected building to prevent it from becoming a shrine". Business Insider. October 27, 2019.
  15. ^ “米、急襲作戦の映像公開=IS指導者アジトを破壊”. www.jiji.com. 2019年11月2日閲覧。
  16. ^ “トランプ大統領 バグダディの殲滅を宣言 作戦の詳細をつまびらかに”. スプートニク (2019年10月28日). 2019年10月29日閲覧。
  17. ^ “「バグダディ急襲作戦」知りながら米軍撤収:トランプ大統領の戦略に強い疑問”. デイリー新潮 (2019年10月29日). 2019年10月29日閲覧。
  18. ^ “聖地化恐れ、隠れ家を完全破壊、バグダディの遺体は海に水葬”. Wedge (2019年10月29日). 2019年10月29日閲覧。

関連項目

勢力
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