大韓民国の経済
大韓民国の経済[1] | ||
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通貨 | 大韓民国ウォン (KRW) | |
会計年度 | 暦年(1月1日-12月31日) | |
貿易機関 | APEC、WTO、OECD、RCEP | |
経済統計 | ||
実質GDP | 1兆6,345億ドル(2019年) | |
GDP(PPP) | 1兆6,470億ドル(2021年) | |
実質GDP成長率 | 2.7 %(2018年) | |
一人当たりGDP | 34,865ドル 42,650ドル(PPP) | |
部門別GDP | 農業 2.2 % 工業 39.3 % サービス業 58.3 %(2017年推計)[2] | |
インフレ率(CPI) | 0.3 %(2019年推計)[2] | |
貧困線未満の人口 | 14.4 %(2016[3]年推計) | |
労働人口 | 2,682万人(2018年) | |
部門別労働人口 | 農業 7.2 % 工業 25.1 % サービス業 67.7 %(2007年) | |
失業率 | 3.8 %(2018年) | |
主要工業部門 | 電子機器、通信機器、自動車、化学、造船、鉄鋼 | |
貿易 | ||
輸出 | 6,055億ドル(2018年推計) | |
輸出品 | 半導体、通信機器、自動車、コンピュータ、鉄鋼、船、石油化学製品 | |
主要輸出相手国 | 中国 26 % ( 欧州連合13 %) アメリカ合衆国 12 % ベトナム 8 % 香港 7.6 % 日本 5.1 % オーストラリア 3.4 %(2018年) | |
輸入 | 3,134億ドル(2009年推計) | |
輸入品 | 機械類、電子機器とその部品、原油、鉄鋼、輸送機器、有機化学製品、プラスチック | |
主要輸入相手国 | 中国 19 % アメリカ合衆国 11 % | |
財政状況 | ||
歳入 | 4兆150億ウォン(2020年) | |
歳出 | 4兆2億ウォン(2020年推計) | |
国家借入金 | GDPの28 %(2009年推計) | |
外貨準備 | 4,036億ドル(2018年) | |
対外債務 | 5,030億ドル(2021年) |
大韓民国の経済(だいかんみんこくのけいざい)は、朝鮮戦争の激戦でインフラが壊滅したことで1960年代前半までは大きく立ち後れていたが、1960年代後半から始まる漢江の奇跡以降は成長を続け、新興工業経済地域(NIEs)の一つに数えられた時期を経て、1996年にアジアで2番目のOECD(経済協力開発機構)加盟国になった。主要な産業はエレクトロニクス、IT、自動車、造船、鉄鋼など。
現在韓国は、アジアの経済大国として非常に高い所得水準を持つ高所得国で、人間開発指数は『極めて高い』を記録、国際通貨基金において『先進経済国』に分類される先進国である[4]。2022年時点で世界12位の名目GDPと6位の軍事力を有し、OECD、G20、パリクラブのメンバーとなっている[5][6][7][注 1]。
国連工業技術力指数は世界3位[8]。エレクトロニクスの世界的牽引国で、テレビ・家電製品・液晶ディスプレイ・有機ELディスプレイはいずれも世界シェア1位[9][10][11][12][13][14]。
ベトナム戦争と韓国経済
韓国大統領の朴正熙は、1961年11月の訪米時にアメリカの歓心と自身の政権の正当性を確保するため、当時の大統領ジョン・F・ケネディに対し、韓国軍のベトナム戦争への派兵を申し出た。南ベトナムに派兵された韓国軍兵士は、2個師団プラス1個旅団の延べ3.1万名。最盛期には5万名を数えた。また、「ベトナム特需」を当てこんだ産業資本や出稼ぎの民間人も進出し、これも最盛期には2万人近くがベトナムに赴いた[15]。韓国軍兵士や出稼ぎの民間人による本国への送金は、年に1億2千万ドルを数え、1969年の韓国の外貨収入の2割に達した[15]。1965年から1972年までのベトナム特需の総額は10億2200万ドルにのぼる[16]。これはアメリカによる軍事・経済援助、日韓基本条約による莫大な援助と合わせて、漢江の奇跡の基礎となった。
財閥による支配
韓国の経済は、そのほとんどをサムスングループ、LGグループ、SKグループおよび、分割された現代財閥、解体された大宇財閥の系列企業で占められており、その構造的な問題点を指摘する声もある。
2017年の財閥(チェボル、ko:재벌)上位10のGDPは国内の66 %を占める[17]。
- サムスンへの依存の高さ
韓国のGDPにおいてサムスングループに依存する割合が高く、2019年の韓国のGDP(国内総生産)の19.4 %である[18]。
アジア通貨危機
1997年のアジア通貨危機のため、韓国経済は大きな危機に直面し、大量倒産や失業と財閥解体が起こった。韓国は国際通貨基金(IMF)の管理下に入り、経済支援を受けた。金大中政権(「朝鮮戦争以来の国難」を受けて発足した野党政権)による、現代財閥の分割や大宇財閥の解体などが行われた。この危機時の借入金は、のちにIMFに対しては2001年8月、アジア開発銀行に対しては2005年までに完済された[19]。
韓国経済の問題点
アジア通貨危機以前は、多くの財閥企業が存在し、傘下の企業が過当競争を繰り広げていたが、IMF管理下で市場の寡占化と外資導入が進んだ。市場の寡占化の結果、企業は国内では海外よりも高値で販売して利益を上げている。大手輸出企業は外国人株主が半数を占めることになった。大手輸出企業は人件費を切り下げて競争力を高め、グローバル市場で競合に打ち勝って利益をあげており、さらに税制優遇措置を受けている。
また社会保障の支出は対GDP比7.7 %と、OECD加盟国中でも極端に低く、最下位である。このように従業員や消費者よりも株主を優遇する経済構造となっている。
アジア通貨危機による経済的な危機から脱却して以降は、半導体やインターネット関連事業の成長により、貿易が黒字基調に転化した。その一方で、通貨危機以前は比較的緩やかだった貧富の差が拡大する傾向にある。金大中政権でのクレジットカード振興策によって2000年頃よりクレジットカードの利用が増加し、内需拡大の一端ともなったが、2003年頃には自己破産が急増し国内での信用不安が高まったため、金融恐慌状態となり内需不振となった。2005年~2006年にかけても国内消費の低迷をはじめ原油高、ウォン高が起きた。2000年頃から、人件費が安く、消費が拡大している中国などに生産拠点を移す韓国企業も増えてきており、産業の空洞化も懸念されている。特に近年、中国の安い人件費に抗えず、かといって日本の先端化された技術に追いつくこともできないジレンマに陥っており、韓国内ではサムスングループ総帥の李健熙らが、サンドウィッチに喩えたことから「日中サンドウィッチ論」と呼ばれている。現在では円キャリー取引などの一環で外国人投資家の投資が集中しており、それに伴うウォン高、不動産価格の上昇などが不安定要因として存在している。
また、韓国では労働時間が長く[20]、労働生産性(Labour productivity)も低い。経済協力開発機構の調査では、2014年の韓国の年間労働時間は2057時間で、メキシコ(2327時間)、チリ(2064時間)に次いで3番目に長い[21]。
特に2010年代以降には、「ヘル朝鮮(地獄のような朝鮮半島の意味)」「スプーン階級論」「三放世代」など、受験戦争の熾烈さや格差の大きさ、腐敗した政治、高い自殺率といった「韓国社会の生きづらさ」を韓国国民が自ら嘆くスラングが次々と誕生している。このような韓国社会の様相は人口構造にも大きく影響をもたらしている。特に文在寅政権発足後の2017年以降は合計特殊出生率の低下が著しく、2018年には0.98(先進国の場合、人口置換水準は2.08程度)を記録しOECD加盟国で2番目に低いスペインの1.23を大きく下回り最下位となった。2020年には0.84とさらに下がり、この年韓国の人口は史上初めて自然減少した。世界でも類を見ない極度の低出生率によって今後も高齢化、人口減少が急速に進行し、2065年の高齢化率は47 %と日本(38 %)などを大きく上回り世界最高、逆に生産年齢人口比率は45 %と世界最下位になるとされた[22]。
労働市場改革
2018年には労働基準法 (韓国)(英語版)が改正された。要点は以下の通り。
- 週あたり労働時間上限を、68時間から52時間に短縮(第51条)。これには残業、休日出勤を含む。
- 18歳未満労働者の最大労働時間を、週40時間から週35時間に引き下げ(第69条)。
- 民間企業に対し、法定の有給休暇取得を義務化(第61条)。
- 常時30人未満の労働者を使用する事業所では、労働者代表と書面による合意を行った場合は52時間上限とは別に、週8時間を超えない範囲で労働時間の延長が可能(第61条)。
経済指標
経済成長率
- 2004年: 4.9 %
- 2005年: 3.9 %
- 2006年: 5.2 %
- 2007年: 5.5 %
- 2008年: 2.8 %
- 2009年: 0.7 %
- 2010年: 6.5 %
- 2011年: 3.7 %
- 2012年: 2.3 %
- 2013年: 2.9 %
- 2014年: 3.3 %
- 2015年: 2.8 %
- 2016年: 2.9 %
- 2017年: 3.1 %
- 2018年: 2.7 %
- 2019年: 2.0 %
- 2020年: −1.0 %
※ 統計庁経済成長率(基準年価格GDP) (OECD)[23]
インフレーション率
- 2003年: 3.5 %
- 2004年: 3.6 %
- 2005年: 2.8 %
- 2006年: 2.2 %
- 2007年: 2.5 %
- 2008年: 4.7 %
- 2009年: 2.8 %
- 2010年: 3.0 %
- 2011年: 4.0 %
※韓国統計庁データベースより。[24]
失業率
- 2003年: 3.6 %(13.0 %, 7.7 %)
- 2004年: 3.7 %(14.1 %, 7.9 %)
- 2005年: 3.7 %(12.5 %, 7.7 %)
- 2006年: 3.5 %(10.4 %, 7.7 %)
- 2007年: 3.2 %(9.3 %, 7.1 %)
- 2008年: 3.2 %(10.2 %, 7.0 %)
- 2009年: 3.6 %(12.2 %, 7.9 %)
- 2010年: 3.7 %(11.9 %, 7.8 %)
- 2011年: 3.4 %(10.8 %, 7.4 %)
※カッコ内は15歳 - 19歳、20歳 - 29歳の若年失業率。求職断念者と不就業者は統計に含めず。 韓国統計庁データベースより。[25] 韓国では失業者の定義が非常に狭く、働いていない多くの人が失業者として扱われていないという[26]。2011年10月27日の東亜日報の記事では、国際労働機関(ILO)標準のアンケート方式で調査すると、潜在失業率は21.2 %に上るとされている。韓国の失業率はOECD加盟34箇国中トップクラスの低さであるが、労働参加率では下から数えたほうが早い。
海外からの投資
2021年の海外から韓国のユニコーン企業に対する投資は、日本円に換算して約6,600億円で前年比の8倍にも及んでいる。韓国のユニコーン企業が海外から注目されるきっかけを作ったひとつに、宅配アプリ大手「クーパン」の上場がある(2022年現在、会員数1,700万人)。夜中に注文して翌日届く流通システムを整備。クーパンのビジネスモデルは米国やシンガポールなど、海外での展開も始まっている。2021年3月にはニューヨーク株式市場に上場、海外企業の新規上場としては中国のアリババ以来の規模で大きな話題となった。
このような背景から、韓国政府は一つの庁に過ぎなかった部門を格上げして、新たに「中小ベンチャー企業省」を創設。スタートアップ企業などへの投資額は2021年、9兆ウォンにのぼり過去最大となった。同省によると、中小企業やスタートアップ企業で働く従業員は73万人で、サムスン電子など4大財閥の合計従業員数よりも多い。韓国でユニコーン企業はこの5年間で5倍になったと言われている[27]。
脚注
注釈
- ^ ただし、核兵器を含まない指標における位置づけ。
出典
- ^ CIA World Factbook 2010年2月13日閲覧。
- ^ a b “Economy”. CIA. 2021年9月19日閲覧。
- ^ “People and Society”. CIA. 2021年9月19日閲覧。
- ^ “OECD Average annual wages, current prices”. IMF. 2021年3月8日閲覧。
- ^ “https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPD@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD”. www.imf.org. 2022年9月1日閲覧。
- ^ “Global Firepower発表の2022年軍事力ランキング、上位10ヶ国に変動は無し”. grandfleet.info (2022年1月16日). 2022年9月1日閲覧。
- ^ “パリクラブ英語版ホームページ”. Paris Club. 2022年5月15日閲覧。
- ^ “製造業の競争力 韓国は世界3位 ドイツ・中国に次ぐ”. IMF. 2021年3月8日閲覧。
- ^ “韓国サムスン、半導体売上高で3年ぶり首位 インテル抜く”. 日本経済新聞. 2022年5月12日閲覧。
- ^ “2021年の世界スマートフォン出荷台数、韓国サムスン首位”. cnet. 2022年5月12日閲覧。
- ^ “世界テレビ市場で韓国サムスン・韓国LGエレクトロニクスがシェアの半分を占める”. 日本経済新聞. 2022年5月12日閲覧。
- ^ “家電業界の市場シェア、韓国企業が1位と2位を独占。韓国勢約25パーセントのシェア。”. deallab. 2022年5月12日閲覧。
- ^ “韓国勢LGディスプレイ、再びシェア世界一”. 東亜日報. 2021年3月8日閲覧。
- ^ “韓国造船業界が世界1位、688隻で6年ぶりの高水準”. 東亜日報. 2022年5月27日閲覧。
- ^ a b 松岡完『ベトナム戦争 誤算と誤解の戦場』中央公論新社〈中公新書1596〉、2001年7月25日、219頁。ISBN 978-4-12-101596-9。
- ^ 桜井泉. “韓国 軍も企業もベトナム参戦”. 朝日新聞. オリジナルの2021年5月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210508124537/https://www.asahi.com/international/history/chapter08/02.html
- ^ “焦点:韓国版ラストベルト、凋落の企業城下町を襲う失業と自殺”. ロイター. 2021年9月19日閲覧。
- ^ “韓国の大企業64グループの売り上げはGDPの84%だが…雇用影響力はわずか10%”. ハンギョレ. 2021年9月19日閲覧。
- ^ CMIについて財務省とADBへ質問と返答
- ^ a b OECD (2021). Hours worked (indicator) (Report). OECD. doi:10.1787/47be1c78-en。
- ^ “わずか5、6年…韓国勤労者の平均勤続期間OECD最短”. 中央日報. (2015年12月23日). http://japanese.joins.com/article/987/209987.html 2015年12月23日閲覧。
- ^ " 「日本を上回るスピードで悪化中」韓国の少子高齢化の知られざる実態" PRESIDENT Onlineより、2021年4月13日閲覧。
- ^ http://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_2KAA905_OECD
- ^ 韓国統計庁データベース
- ^ 韓国統計庁データベース
- ^ “新型コロナ抑制成功の韓国 合法的に低い失業率を出す方法とは?(2/2)”. コリアワールドタイムズ. (2020年5月7日). https://www.koreaworldtimes.com/topics/news/7273/ 2020年5月24日閲覧。
- ^ 加速する韓国のスタートアップ支援
文献情報
- 「韓国「財閥」の所有構造と経営パフォーマンス」飯島高雄(慶應義塾大学 日本金融学界2004年度秋季大会2004年)[1][2][3]
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