捨て駒

捨て駒(すてごま、捨駒)とは、将棋チェスの用語。

類似の用語に囲碁用語などとして知られる捨て石がある。

なお、何らかの物事を達成するために払われる人的犠牲(ポジティブな戦術作戦での意味[1]、ネガティブな「ただの捨て駒」のような、責任逃れをするための「身代わり」や「生け贄」)などの意味(捨て駒扱い)[2]は、上記の用語から転じたもの。

概要

読みをいれて相手に取らせる目的で駒を進める手筋のこと(駒を「捨てる」と表現)。またその駒のことで、いったん駒損をするがあとの自分側の優勢状況を予想し、相手にわざと取らせる際の駒[3]

特に、味方の駒の利きがなく駒を渡す形となる「タダ捨て」(ただすて)が知られる[4]。これらは持ち駒を使う場合と、盤上の駒を進めて取らせる場合(例えば小池重明#エピソードにある升田幸三小池重明戦で生じたような、指したほうは相手が駒損になるので逃げると読んで指したら、駒をただで捨ててきた例など)がある。

合駒のうち、中合・捨合なども捨て駒の一種。

なお一般に将棋の開戦とされる歩の突き捨てでの「歩」やたたきの歩、継ぎ歩など、「歩」に関する手筋の場合、このときの歩を捨て駒というのは時と場合による。また大駒飛車角行)で、質駒などを取って相手に大駒を渡してしまうことは「捨てる」ではなく「切る」と表現する。

わざと取らせようとしているので、大抵は俗に言う毒まんじゅう[5]である場合が多い。

江戸時代からある四間飛車破りの居飛車腰掛銀右四間飛車での▲2五桂(△8五桂、図1-1)から振り飛車側が△2二角とし▲4五歩の攻めなど、この攻めでは指した桂馬は後で△2四歩とされて取られる運命であるため、捨て駒となる。特に桂馬は「桂跳ね」と言って前進することしか出来ないことで「桂の高跳び歩の餌食」という格言から、こうした捨て駒になりやすい。同様の戦術に四間飛車破りのポンポン桂(桂馬を犠牲にすることで飛車先を突破する)や、向かい飛車▲8五桂ポン(△2五桂ポン、図1-2)などが知られる。

△持ち駒 なし
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▲持ち駒 なし
図1-1a ▲2五桂。ここから△2二角~2四歩~2五歩として桂馬を取りにいくと右四間飛車側も▲4五歩~4四歩~▲4五銀△同銀▲同飛~2五飛の攻めが生じる
△持ち駒 なし
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▲持ち駒 なし
図1-1b ▲2五桂。このかたちも△2二角▲4五歩。以下△5五歩だと▲4四歩~4三歩成。△2四歩は▲4四歩△同銀▲4五銀(△同銀には▲2二角成~4五飛)
△持ち駒 なし
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▲持ち駒 歩
図1-2 図では▲9七桂から8五桂。図の局面は△同飛とさせて▲8六歩~8五歩と飛車先逆襲を狙っている

この他、対四間飛車5筋位取りに対する四間飛車側反撃の△6五銀に▲5六銀(図1-3)や▲6五銀~▲7七角(△4五銀~△3三角、図1-4)など。

△持ち駒 歩
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▲持ち駒 歩
図1-3 後手番5筋位取りで、△6五歩▲同歩△同銀に対する▲5六銀。これを△同歩とすると▲2二角成から5五角が生じるので、後手は△6六歩などとしておく
△持ち駒 歩
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▲持ち駒 桂歩
図1-4 後手番5筋位取りで、△6五歩▲同歩に△同桂とし、▲5九角△5六歩▲同銀△8八角成▲6五銀△7八馬に、飛車を逃げず捨て駒にして▲5四銀。以下△6九馬には▲7七角の反撃をする

受けの例

一手を争う終盤の局面ならば、手数をかせいで手番を握れば逆転が生じる場面もあり、その際に捨て駒が活用される局面もある。

下記の図1-5で、図面上の陣では、先手が▲5五角と添えて、▲7四桂の狙いに後手が△6四金と捨て駒した局面。▲同角と取らせて△6三銀とし、先の狙いを防ぐとともに手数をかせぐ手段。

図面下の陣では、後手の攻めが△6八金・△3九金と迫っているため、先手が▲4九銀と捨て駒をしたところ。△同金右(直)と取らせることで、先手玉に迫るのには2手すきになることで、手をかせぐことができる。

寄せの例

図1-6の右半分は有名な矢倉崩しの手筋で、図のように持ち駒に桂馬があるなら▲2四桂と捨て駒をする。放置すると▲3二馬なので後手は△同歩▲同歩△同銀▲同飛△2三歩と粘るが、そこで▲3一銀と打つ。先手の持ち駒に金があれば以下△3三玉でも▲3二馬と捨て駒で、これを△同玉であってもさらに▲2三飛成と飛車の捨て駒で決まる。

図1-6の左半分も美濃囲いに対する寄せで有名な局面。先手▲7一銀に△9二玉と逃げ、▲9三×に△同玉とした局面。ここで先手の持ち駒に金銀1枚ずつがあると捨て駒の手筋、図面以下▲8二銀打△9二玉に▲9一銀成と捨て駒をする。これを△同玉であると▲8二金なので△9三玉とするが、再度7一の銀を▲8二銀不成として捨て駒をすると、以下△同玉に▲9二金で詰み。

△持ち駒
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▲持ち駒
図1-6 寄せの例
△持ち駒
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▲持ち駒
図1-5 受けの例

実践例

棋戦で生じた代表例としては、下記の妙手が知られる。これらは妙手であるだけあって、指されたほうや対戦を観戦している周囲は指される直前まで気が付かない(将棋用語でいう「指されてみればなるほど」)場合が多いが、取ると一目で形勢が悪いのがわかる。

妙手#タイトル戦における3大妙手(すべてタダ捨て)などが知られる。

また、妙手#その他の妙手では

  • 1971年、第30期名人戦第3局。先手大山康晴対後手升田幸三戦の94手目△3五銀。
  • 1988年、第38回NHK杯準々決勝。先手羽生善治対後手加藤一二三戦の61手目▲5二銀。
  • 2006年、第19期竜王戦第3局。先手佐藤康光対後手渡辺明戦の124手目△7九角。
  • 1996年、第9期竜王戦第2局。先手羽生善治対後手谷川浩司戦の80手目△7七桂。

といった捨て駒が知られる。

さらに、妙手#升田幸三賞を受賞した妙手では

など。

その他の捨て駒が生じた実践例としては、第62期棋聖戦第1局、先手羽生善治対後手谷川浩司戦で生じ、『名探偵コナン』など多くの作中で棋譜のモデルとして使われて知られる先手攻防の自陣飛車▲4八飛に△4七角(図2-1)や、1981年王将戦二次予選、先手田中寅彦対後手谷川浩司戦のような押し付ける捨て駒(図2-2)、1988年のC級1組順位戦4戦目、先手泉正樹対後手羽生善治戦(図2-3)、第62回NHK杯戦準決勝第2局、先手郷田真隆対後手羽生善治戦(図2-4)などでみられる。

△持ち駒 金銀桂歩3
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▲持ち駒 角香歩5
図2-1 ▲4八飛に△4七角の捨て駒「中合」。▲4八飛は王手をかけつつ7八の銀をとる意味であるが、この角のために▲7八飛△同飛▲同玉としても△6九銀で詰んでしまう
△持ち駒 角歩
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▲持ち駒 香歩
図2-2 後手△6七桂に▲4八金とタダ捨て。この金を△同とと取ると後手の攻めの手がかりが消えるので、▲4二との攻めが十分間に合ってくるとの読み
△持ち駒 銀銀桂香歩4
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▲持ち駒 金歩
図2-3 △2八飛▲3三角成に図の△7九銀とタダ捨てから、後手は連続王手を駆使して受けきってしまう。捨て駒よりも一連の流れが有名となった一局。
△持ち駒 金桂桂歩
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▲持ち駒 飛金銀銀歩5
図2-4 △8六銀の捨て駒王手。秒読みの中での局面であり、心理的には△8五桂と打ち、銀を残したい局面であるが、それだと詰まない

脚注

  1. ^ 国内ロードレース
  2. ^ 女性教員や一流大学生が「オレオレ詐欺の捨て駒」になる裏事情
  3. ^ 『捨駒』 - コトバンク
  4. ^ 例えば桂馬のタダ捨てからの送りの手筋【覚えておきたい矢倉の崩し方】 日本将棋連盟将棋コラム。※ただしこの例の桂馬には、角行の利きがある。
  5. ^ 歩は「毒まんじゅう」だった 広瀬八段押し切る 朝日杯
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