追憶のハイウェイ 61

追憶のハイウェイ61
ボブ・ディランスタジオ・アルバム
リリース
録音 1965年6月15日-8月4日
アメリカニューヨーク市
コロムビア・レコーディング・スタジオ
ジャンル ロック、フォーク・ロック
ブルース・ロック
時間
レーベル コロムビア
プロデュース ボブ・ジョンストン
トム・ウィルソン(「ライク・ア・ローリング・ストーン」のみ)
専門評論家によるレビュー
チャート最高順位
  • アメリカ合衆国の旗 3位(ビルボード・トップ LP's
  • イギリスの旗 4位(全英アルバム・チャート
  • ゴールドディスク
  • アメリカ合衆国の旗 プラチナ(RIAA
  • カナダの旗 ゴールド(CRIA)
  • ボブ・ディラン アルバム 年表
    ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム
    (1965年)
    追憶のハイウェイ61
    (1965年)
    ブロンド・オン・ブロンド
    1966年
    『追憶のハイウェイ61』収録のシングル
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    追憶のハイウェイ61』(: Highway 61 Revisited)は、ボブ・ディラン1965年に発表した6作目のスタジオ・アルバム

    ビルボード・トップ LP's チャートで最高3位、全英アルバム・チャートで4位を記録した。RIAAによりプラチナ・ディスクに認定されている。2002年グラミーの殿堂入りを果たした。

    ローリング・ストーン』誌が選んだ「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」(2020年版)において18位にランクインした[1]

    タイトルについて

    「ブルース・ハイウェイ」と呼ばれる「ハイウェイ61(英語版)」(61号線)は、ニューオーリンズからメンフィスやセントルイスを通り、アイオワからミネソタに入る国道で、当時はディランの生誕地ダルースを通ってカナダ国境まで伸びていた。しかし1991年に同路線はミネソタ州東部の町ワイオミング以北部分廃線となった。それ以後、廃線となった区間のうちダルース以北はミネソタ州道61号線として「ハイウェイ61」の名を残している。

    様々な伝説を伴っており、例えばベッシー・スミスは同路線で自動車事故死し、マーティン・ルーサー・キングは61号線にあるモーテルで殺害された。また、エルヴィス・プレスリーは同路線に沿って立てられた住宅の中で育ち、ロバート・ジョンソンは61号線と49号線の交わる十字路で悪魔に魂を売り渡してギターのテクニックを身につけたという「クロスロード伝説」で知られている。

    同路線はしばしばブルース曲に歌われ、フレッド・マクドウェルの「61 Highway」やジェームズ・トーマスの「Highway 61」が有名である。ロバート・シェルトンはBBCのインタビュアーに「多くのアメリカ文化の基礎がちょうどそのハイウェイとその川を上ってきた」と語り、「そして10代のディランはラジオの中でそのハイウェイを旅した。…ハイウェイ61号線は彼にとって自由、変化、独立のシンボル、そしてヒビングでの彼が望まなかった生活から抜け出すチャンスになったと思うよ」という。

    概要

    本アルバムはディランが彼自身のサウンドを確立し、後のニュー・ミュージックの起点となった作品と言われる。初のトップ10ヒットとなった「ライク・ア・ローリング・ストーン」を含む9曲が収録されている。「ライク・ア・ローリング・ストーン」は1965年6月中旬に完成したが、残りの曲は1965年に行われた伝説的な「ニューポート・フォーク・フェスティバル」後間もない4日間に渡ったセッションで録音された。そのセッションでは次のシングル「寂しき4番街」も録音されたが本アルバムには収録されなかった。

    サウンド的にはキーボードを導入して、前作より格段に厚みを増しており、歌詞に相応しい混沌とした音作りに成功している。バックで主要な貢献をしたのはマイク・ブルームフィールドアル・クーパーである。ブルームフィールドは、彼の加入していたバタフィールド・ブルース・バンドがディランのマネージャーでもあったアルバート・グロスマンにマネジメントされていた関係で、セッションに参加することになった。彼はディランの初期のアルバムを聴いて、(それがあまりにひどいので)ディランにギターを教えてやるつもりだったという。彼のプレイはアルバム全体に複雑な彩りを添えており、特に「トゥームストーン・ブルース」で見事なソロを披露している。クーパーは飛び入り参加でギターをやるつもりだったが、ブルームフィールドのプレイに恐れをなして断念し、隅で見ていたところ、適当なオルガン奏者がいなかったので、彼自身もほとんどオルガンを弾いたことがなかったにもかかわらず、強引に申し出たという。クーパーのプレイは「やせっぽちのバラッド」などでコントロールを失うところがあり、彼の話が必ずしも謙遜ではないことを示しているが、荒削りで力強い演奏がこのアルバムのサウンドに大きな迫力を与えている。

    収録曲

    全曲、作詞・作曲: ボブ・ディラン

    Side 1

    1. ライク・ア・ローリング・ストーン - Like a Rolling Stone - 6:09
    2. トゥームストーン・ブルース - Tombstone Blues - 5:58
    3. 悲しみは果てしなく - It Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train To Cry - 4:09
    4. ビュイック6型の想い出 - From a Buick 6 - 3:19
    5. やせっぽちのバラッド - Ballad of a Thin Man - 5:58

    Side 2

    1. クイーン・ジェーン - Queen Jane Approximately - 5:31
    2. 追憶のハイウェイ61 - Highway 61 Revisited - 3:30
    3. 親指トムのブルースのように - Just Like Tom Thumb's Blues - 5:31
    4. 廃墟の街 - Desolation Row - 11:21

    パーソネル

    楽曲

    アルバム・タイトル曲「追憶のハイウェイ61」は、第一連で61号線をまず、「神がアブラハムにそこで子供を殺せと命じた場所」と設定し、最終連で「次の世界大戦が始まる所」とするなど、当時のディランの世界観を象徴する場として描いている。

    「やせっぽちのバラッド」は居場所を失った「ミスター・ジョーンズ」を主人公として存在の不安定さを追求した作品で、後のコンサートでも度々演奏されるスタンダード・ナンバーの一つである。ジョン・レノンが作詞・作曲したビートルズの「ヤー・ブルース」はこの曲を意識して作られている。

    「廃墟の街」はアルバム中では唯一アコースティック・ギターを主体としたフォーク調の曲である。リードギターはチャーリー・マッコイ。アレン・ギンズバーグの影響を受けて、荒廃した社会を象徴的に描いており、11分以上という当時のポピュラーソングとしては異例の長さを持つ。

    アウトテイク

    同セッションで録音された「寂しき4番街」はアルバムには収録せず、「ライク・ア・ローリング・ストーン」に続くシングルとしてリリースされた(B面は「ビュイック6型の想い出」)。 『バイオグラフ』(1985年)に「ジェット・パイロット("Phantom Engineer"と題された「悲しみは果てしなく」の初期バージョン」、「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ラヴァー」が収録されている。 未発表になった「シッティング・オン・ア・バーブド・ワイヤー・フェンス("Killing Me Alive"と題されてブートレッグで出回ったアウトテイクVersionからエンディングをフェードアウトさせたもの)」や「ライク・ア・ローリング・ストーン(オリジナル・ショート・バージョン3/4拍子ワルツ)」、「悲しみは果てしなく("Phantom Engineer"から改題されたオルタネイト・テイクからイントロのカウントダウンをカットしエンディングをフェードアウトさせたもの)」が『ブートレッグ・シリーズ第1〜3集』(1991年)に、「悲しみは果てしなく(オルタネイト・テイク)」、「トゥームストーン・ブルース(オルタネイト・テイク)」、「親指トムのブルースのように(オルタネイト・テイク)」、「廃墟の街(オルタネイト・テイク)」、「追憶のハイウェイ61(オルタネイト・テイク)が『ノー・ディレクション・ホーム:ザ・サウンドトラック(ブートレッグ・シリーズ第7集)』(2005年)に収録されている。

    "From A Buick 6"は最初期テストプレス盤ではハーモニカのフィーチュアされたAlternate Versionが使用されていた。日本ではアナログ盤時代はずっとこのVersionが使用されており、CD化の際に現行仕様に改められた。現在このAlternate Versionはどの企画盤にも復刻されていない。

    反響・評価

    アルバムは1965年8月にリリースされた。シンガーソングライターのフィル・オクス(Phil Ochs)は、『ブロードサイド』誌10月15日63号に掲載された10月初旬のシス・カニンガムとのインタビューの中でこのアルバムに触れ、ディランは「これまでのどのアルバムよりも重要で革新的なアルバムを作った」と述べた。[2][3]

    アルバムは11月3日付『ビルボード』誌「トップ LP's」チャートで最高3位を記録し、全英アルバム・チャートで4位を記録した[4][5]アメリカ・レコード協会 RIAA により、1967年8月25日にゴールド・ディスク、1997年8月19日プラチナ・ディスクに認定されている[6]2002年グラミーの殿堂入りを果たしている。

    「ライク・ア・ローリング・ストーン」とこのアルバムがチャートに進出した頃から、ディランはポピュラー・ミュージックの世界で、ビートルズと並称される存在となる。レコード売り上げなどの商業的な面では、この時点でも彼とビートルズの間には大きな差があったが、特にロックの世界を中心に、ミュージシャンのイメージを、詞曲両面にわたる芸術的創造力と人気とを両立し得るアーティストへと変化させた点で、ビートルズをも凌ぐ最も大きな役割を果たしたと言える。ディブ・マーシュは「この時代からごく普通のロックバンドでもメッセージ性の強い曲を作るようになったのは、節や拍子が自由で歌詞の内容が制約されないディランの作品の影響によるもの」[7] だとしている。

    現在でもこのアルバムは史上屈指の革新的意義を持つものとされ、『これが最高!(Critic's Choice Top 200 Albums)』(1979年 クイックフォックス社)英米編では3位、英国の音楽雑誌『MOJO』が1995年に選んだ「The 100 Greatest Albums Ever Made」では5位にランクされている。『ローリング・ストーン』誌が2003年に選んだ「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」では4位にランクされている[8]。『ローリング・ストーン』誌が2004年に選んだ「オールタイム・グレイテスト・ソング500」には、このアルバムから3曲がランクインしている。1位「ライク・ア・ローリング・ストーン」、185位「廃墟の街」、364位「追憶のハイウェイ61」。

    チャート

    アルバム
    チャート 最高順位
    1965年 ビルボード・トップ LP's 150 3
    1965年 全英アルバム・チャート Top 75 4

    リリース

    アメリカ
    日付 レーベル フォーマット カタログ番号 付記
    1965年8月30日[9] Columbia LP CL 2389 モノラル
    CS 9189 ステレオ
    Columbia CD CK
    日本

    2004年、再発CDがオリコン・チャートで最高143位を記録した。[10]

    日付 レーベル フォーマット カタログ番号 付記
    1968年 CBSソニー LP SONP-50345
    1974年 CBSソニー LP SOPL-225
    1976年 CBSソニー LP 25AP 273
    1985年4月1日[11] CBSソニー CD 30DP 305 不滅のロック名盤コレクション
    1990年6月1日[12] ソニー CD CSCS 6012 NICE PRICE LINE
    1995年12月21日[13] ソニー CD SRCS 7904 SBM、紙ジャケ
    1996年10月21日[14] ソニー CD SRCS 9074 SUPER NICE PRICE 1600
    1997年11月21日 ソニー MD SRYS 1222 SUPER NICE PRICE
    2003年10月22日[15] ソニー SACD HYBRID MHCP-10004
    2004年8月18日[16] ソニー CD MHCP-372 紙ジャケ、完全生産限定盤
    2005年8月24日[17] ソニー CD MHCP-806 2003年デジタル・リマスター
    2008年12月24日[18] ソニー Blu-spec CD SICP-20024

    脚注

    注釈

    出典

    1. ^ Bob Dylan, 'Highway 61 Revisited' | 500 Greatest Albums of All Time | Rolling Stone
    2. ^ Broadside #63 (1965年)、p. 4。"I feel what's important in that he's produced the best album ever made -- the most important and revolutionary album -- because he's reached such heights of writing."
    3. ^ リバコブ(1974年)、p. 87、pp. 171-172。
    4. ^ “Top LP's”. Billboard (The Billboard Publishing Company) (November 6, 1965): p. 22. https://books.google.co.jp/books?id=YykEAAAAMBAJ&lpg=PA67&dq=billboard%201965&pg=PA22#v=onepage&q&f=false 2011年3月10日閲覧。. 
    5. ^ “Bob Dylan - The Official Charts Company” (英語). theofficialcharts.com. 2011年3月10日閲覧。
    6. ^ “RIAA Gold and Platinum Search for albums by Bob Dylan” (英語). RIAA. 2011年3月10日閲覧。
    7. ^ 『ローリングストーンレコードガイド』講談社(1982年3月刊)
    8. ^ “500 Greatest Albums: Highway 61 Revisited - Bob Dylan” (英語). rollingstone.com. 2011年3月10日閲覧。
    9. ^ Highway 61 Revisited” (英語). bobdylan.com. 2011年3月9日閲覧。 “08/30/1965”
    10. ^ “追憶のハイウェイ61(MHCP-372)”. オリコン. 2009年8月14日閲覧。
    11. ^ “追憶のハイウェイ61(30DP-305)”. CDJounal.com. 2009年8月19日閲覧。
    12. ^ “追憶のハイウェイ61(CSCS-6012)”. オリコン. 2009年8月14日閲覧。
    13. ^ “追憶のハイウェイ61(SRCS-7904)”. オリコン. 2009年8月14日閲覧。
    14. ^ “追憶のハイウェイ61(SRCS-9074)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月14日閲覧。
    15. ^ “追憶のハイウェイ61(MHCP-10004)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月14日閲覧。
    16. ^ “追憶のハイウェイ61(MHCP-372)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月14日閲覧。
    17. ^ “追憶のハイウェイ61(MHCP-806)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月14日閲覧。
    18. ^ “追憶のハイウェイ61(SICP-20024)”. ソニー・ミュージック. 2009年8月14日閲覧。

    参考文献

    • サイ・リバコブ、バーバラ・リバコブ 著、池央耿 訳『ボブ・ディラン』角川書店角川文庫〉、1974年。  - Ribakove, Sy and Barbara (1966). Folk Rock: The Bob Dylan Story. New York: Dell Publishing 
    • “An Interview with Phil Ochs” (PDF). Broadside (New York: Broadside) (#63): pp. 3-7. (October 15, 1965). http://www.broadsidemagazine.com/All/63.pdf 2011年3月10日閲覧。. 

    外部リンク

    • Highway 61 Revisited www.bobdylan.com
    スタジオ・アルバム

    『ボブ・ディラン』 · 『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』 · 『時代は変る』 · 『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』 · 『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』 · 『追憶のハイウェイ61』 · 『ブロンド・オン・ブロンド』 · 『ジョン・ウェズリー・ハーディング』 · 『ナッシュヴィル・スカイライン』 · 『セルフ・ポートレイト』 · 『新しい夜明け』 · 『ビリー・ザ・キッド』 · 『ディラン』 · 『プラネット・ウェイヴズ』 · 『血の轍』 · 『地下室(ザ・ベースメント・テープス)』 · 『欲望』 · 『ストリート・リーガル』 · 『スロー・トレイン・カミング』 · 『セイヴド』 · 『ショット・オブ・ラブ』 · 『インフィデル』 · 『エンパイア・バーレスク』 · 『ノックト・アウト・ローデッド』 · 『ダウン・イン・ザ・グルーヴ』 · 『オー・マーシー』 · 『アンダー・ザ・レッド・スカイ』 · 『グッド・アズ・アイ・ビーン・トゥ・ユー』 · 『奇妙な世界に』 · 『タイム・アウト・オブ・マインド』 · 『ラヴ・アンド・セフト』 · 『モダン・タイムズ』 · 『トゥゲザー・スルー・ライフ』 · 『クリスマス・イン・ザ・ハート』 · 『テンペスト』 · 『トリプリケート』

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